2017/09/09

会社が倒産!?未払い賃金(給料、残業代)を国に立替えてもらう方法

 

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一般的に、未払い残業代は、あなたが勤務していた会社(あなたに給与を支払っていた使用者)に請求するものです。

しかし、その請求相手方が倒産してしまったら?破産してしまったら?あるいは、会社更生手続きの管理下に置かれてしまったら?

一体、誰に対して請求したらよいのでしょうか
そもそも、請求(回収)することなどできるのでしょうか

また、これは忌々しきケースですが、
(あなたが残業代を請求する以前に、既に経営危機に陥っているような会社は)あなたが請求をした途端に、意図的に倒産などすることがあります。

ですので、「請求相手方が倒産などして存在しない方」も、「請求相手方の経営状況が危うく倒産する可能性を感じる方」も、知識として押さえておくことをお奨めします。

1.会社が倒産したら残業代は請求できない?

いいえ、制限付きではありますが、残業代は請求(回収)できます

会社が倒産や破産してしまった場合でも、会社更生手続きの管理下に置かれてしまった場合などでも、残業代を回収することは可能です。

詳しい説明の前に、結論から言ってしまえば、「独立行政法人労働者健康安全機構(旧称: 独立行政法人労働者健康福祉機構)」の「未払賃金の立替払事業」を利用することになります。

これによって、「労働者健康安全機構」が、倒産などしてしまった会社の代わりに、あなたの未払い賃金(残業代含む)を立替えて(注)支払ってくれるのです。

立替払制度が創設された昭和51年から平成27年3月までの間に、約115万人に対して総額4,800億円の立替払が実施されています。

注釈: 立替えた額はどこから補填されるの?

あなたに対して立替払が実施された場合、あなたが持っていた賃金請求権は、(あなたの承諾を得て)労働者健康安全機構に移動します(民法第499条第1項による代位取得)。そして、労働者健康安全機構は、国の債権管理等に関する法律に順じ、事業主などに求償(賠償請求)します。立替払が実施されたからといって、事業主の賃金支払義務が免除されるものではありません。

では、「独立行政法人労働者健康安全機構」とはどのような機関なのか?その「立替払事業」とはどのようなものなのか?を解説していきます。

2.独立行政法人労働者健康安全機構とは?

労働者健康安全機構の公式サイトには次のように説明されています。

平成28年4月より、「独立行政法人労働者健康福祉機構」と「独立行政法人労働安全衛生総合研究所」が統合し、「独立行政法人労働者健康安全機構」として発足しました。
加えて、国が委託事業として実施してきた「化学物質の有害性調査(日本バイオアッセイ研究センター事業)」が統合法人の業務に追加されます。

労働者健康安全機構は、過労死関連疾患、アスベスト、メンタルヘルス、せき髄損傷、産業中毒など、勤労者の職業生活を脅かす疾病や事業場における災害に関して、働く人の視点に立って被災労働者などが早期に職場復帰し、疾病の治療と職業生活の両立が可能となるような支援を推進し、職業性疾病について臨床で得られた知見を活かしつつ、総合的な調査・研究、その成果の普及を行うことにより、労働者の健康及び安全の確保を図るほか、未払賃金立替払事業などを行い、もって労働者の福祉の増進に努めます。

独立行政法人労働者健康安全機構 公式サイトより抜粋

……ちょっとよくわかりません。

簡単、且つ、具体的に言うと、次のようなことをしています。

  1. 労災疾病等に関する予防から診断、治療、リハビリテーション、職場復帰に至る一貫した高度・専門的医療の提供、治療と就労の両立支援、労災疾病研究とモデル予防法・モデル医療技術の開発・普及
  2. 産業保健関係者(職域関係者)に対しての研修等を通じた知見の普及
  3. 労働現場における負傷、疾病等の災害の防止を図るための高度な専門的知見に基づく災害原因の調査と再発防止策の提言等
  4. 化学物質等の有害性調査
  5. 企業倒産に伴い賃金未払のまま退職した労働者に対する未払賃金の立替払

3.未払賃金の立替払事業とは?

未払賃金の立替払事業は、「賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法と呼称されます)」に基づく事業で、会社が倒産(倒産の定義は後述)してしまったために賃金や残業代を支払ってもらえない労働者を救済するためのものです。

労働者健康安全機構を所管(管轄)するのは厚生労働省ですから、労働者とその家族の生活の安定を図る国のセーフティネットと言えます。

つまり、国が、倒産などしてしまった会社の代わりに、あなたの未払い賃金(残業代含む)を立替えて支払ってくれる事業なのです。

4.未払賃金の立替払事業の制限

このページの冒頭にて「制限付きではありますが、残業代は請求(回収)できます」とお話した通り、立替払を受けるためには、大きく5つの制限があります。

順番に解説していきます。

制限の中には「立替払してもらえる対象期間」や「立替払の上限額」があります。他の制限と絡めると、請求額の20%ほどしか立替払してもらえない(回収できない)ケースもありますが、0%よりは20%です!
また、立替払請求はタイミング勝負!です。守りの姿勢ではなく、自ら情報を取りに行く攻めの姿勢でなければなりません(理由は後述)

制限1.対象となる倒産とは?

あなたの勤務する(勤務していた)会社が「倒産」した場合に、未払賃金の立替払制度を利用できる可能性があります。

ここで言う倒産とは、次のいずれかに該当する場合です。

  1. 法律上の倒産
    「破産手続開始の決定(破産法)」「特別清算手続開始の命令(会社法」「再生手続の開始の決定(民事再生法)」「更生手続開始の決定(会社更生法)」があった場合。
  2. 事実上の倒産(中小企業事業主のみ
    事業活動が停止し、再開する見込みがなく、且つ、賃金支払能力がない状態」になったことについて、労働基準監督署長の認定があった場合。

「中小企業事業主」に該当するかどうかの判断基準

「2.事実上の倒産」は、中小企業事業主のみに適用される倒産要件です。

ここで言う中小企業事業主とは、下表の通りです。

資本額または出資総額常時使用する労働者数
一般産業(下記以外)3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業5千万円以下100人以下
小売業5千万円以下50人以下

「事実上の倒産」に該当するかどうかの判断基準

「1.法律上の倒産」に該当するかどうかの判断は容易であると思います。

しかし、「2.事実上の倒産」に該当するかどうかの判断は困難である場合が多いです。
なぜなら、事実上の倒産は社外に広く周知されるものではなく、特にその兆候の段階においては、極一部の経営陣だけが知っているトップシークレットとして扱われるからです。

しかし、あなたはこの兆候を察知して準備を進めなければなりません

よって、下記の状態を参考に、該当する可能性が高いと感じる場合には、管轄の労働基準監督署に早めに相談することをお奨めします。

「事業活動の停止」とは?
  • 事業場が閉鎖され、労働者全員が解雇されるなどにより、その事業本来の事業活動が停止した場合。
  • 事業の廃止のために必要な清算活動を行っているに過ぎない場合。
  • 事業規模が縮小されても、その事業本来の事業活動を継続している場合は該当しない。
「再開する見込みがない」とは?
  • 事業主が事業再開の意図を放棄した場合。
  • 清算活動に入るなどにより再開する見込みがなくなった場合。
「賃金支払能力がない」とは?
  • 事業主に賃金の支払に充てられる資産がなく、且つ、資金の借入れなどを行っても賃金支払の見込みがない場合。
  • 負債額が資産額を上回る、いわゆる債務超過である状態のみでは該当しない。

制限2.対象となる使用者は?労働者は?

使用者(会社)と労働者(あなた)の両方が、次の条件すべてを満たした場合、未払賃金の立替払事業を利用できる可能性があります。

  • 使用者(会社)が、
    1. 労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業で1年以上事業活動を行っていた。
    2. 前記の「法律上の倒産」または「事実上の倒産」に該当する。
  • 労働者(あなた)が 、
    1. 「法律上の倒産の場合には裁判所への破産手続開始などの申立日」、「事実上の倒産の場合には労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請日」、の6ヵ月前の日から2年の間に退職した。
    2. 未払賃金額などについて、「法律上の倒産の場合には破産管財人などの証明(承認)」、「事実上の倒産の場合には労働基準監督署長の確認」、を受けた。
    3. 未払賃金がある(未払賃金の総額が2万円以上)。

未払賃金の立替払事業を利用できる労働者
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独立行政法人労働者健康安全機構 公式サイトより引用

言い換えると、「裁判所への破産手続開始などの申立日」が、「あなたが退職した日から6ヵ月以内」であれば、立替払制度を利用できます。
しかし、あなたが退職した日から6ヵ月を1日でも過ぎてしまえば立替払制度は利用できません

嘘のような本当の話ですが、この1日の差で悔しい想いをした相談者の方もいらっしゃいました。

もっとも、「裁判所への破産手続開始などの申立日」は、あなたが操作することはできません。
なぜなら、会社が決めた日に、会社が裁判所に申立てするからです。

よって、守りの姿勢であるあなたは、運がなかったと諦めるしかありません。

しかし、自ら情報を取りに行く攻めの姿勢であるあなたはどうでしょうか?

「裁判所への破産手続開始などの申立日」は操作できなくても、「労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請日」は操作が可能です。
なぜなら、あなたが決めた日に、あなたが労働基準監督署長に申請するからです。

よって、あなたが退職した6ヵ月以内に、裁判所への破産手続開始などの申立がされなければ、労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請をする(してみる)という、攻めの姿勢であるあなただからこそできる方法も十分にあり得ます。

立替払請求はタイミング勝負!守りの姿勢ではなく、自ら情報を取りに行く攻めの姿勢でなければならないと言った理由がコレです。
「労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請をする(してみる)」と言っても、前記の「使用者(会社)と労働者(あなた)の両方における条件」を満たしていなければ認定はされません。ある程度の勝算があってこその認定申請ですので、会社の経営状況が危うく倒産する可能性を感じるような方は、退職後も会社の動向をチェックしておくことが重要です。

制限3.利用(請求)できる期間は?

未払賃金の立替払事業を利用(請求)できる期間、言い換えると、「未払賃金の立替払請求書」を労働者健康安全機構に提出できる期間は次の通りです。

  • 法律上の倒産の場合
    「裁判所の破産手続の開始などの決定日」または「命令日の翌日」、から起算して2年以内。
  • 事実上の倒産の場合
    労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内。

未払賃金の立替払事業を利用(請求)できる期間

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独立行政法人労働者健康安全機構 公式サイトより引用

制限4.対象となる賃金は?

未払賃金の立替払事業で立替えて支払ってもらえる賃金は次の通りです。

  • あなたの退職日の6ヵ月前の日から、立替払請求の日の前日までの間に、支払日が到来している「定期賃金」及び「退職手当」。
    未払賃金の総額が2万円未満の場合には利用不可。

未払賃金の立替払事業の立替対象となる賃金

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独立行政法人労働者健康安全機構 公式サイトより引用

通常、未払い賃金(残業代を含む)の請求対象は「現在から2年分」です。しかし、未払賃金の立替払事業の請求(立替)対象は「あなたの退職日の直前6ヵ月分」です。つまり、会社が、法律上の倒産、事実上の倒産に限らず倒産などしてしまってからでは、最大でも6ヵ月分しか回収できないと理解してください。
通常時の、未払い賃金の請求対象期間(2年)については『残業代は2年分しか請求できない!時効を中断して最大額を請求する』で解説しています。

「定期賃金」とは?

立替払事業の対象となる賃金である「定期賃金」及び「退職手当」の内、「定期賃金」とは次の通りです。

  • 労働基準法第24条第2項に定めれらている、毎月1回以上定期的に決まって支払われる賃金。
    例)基本給、家族手当、通勤手当、時間外手当など
    所得税、住民税、社会保険料などの法定控除額を控除する前の額が対象。

賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

労働基準法第24条第2項

「退職手当」とは?

立替払事業の対象となる賃金である「定期賃金」及び「退職手当」の内、「退職手当」とは次の通りです。

  • 労働協約、就業規則(退職金規程)などに基づいて支給される退職金
    会社が、中小企業退職金共済制度などの社外積立の退職金制度に加入し、他制度から退職金が支払われる場合は、支払われる額を差し引いた額が対象。

「定期賃金」や「退職手当」から差し引かれるもの

次のものを差し引いた額が立替払の対象となります。

  • 既に支払を受けたもの
  • 事業主の債権に基づき毎月の賃金から差し引かれているもの(社宅料、会社からの物品購入代金、貸付金、返済金など)

立替払事業の対象とならないもの

次のものは立替払の対象外です。

  • 賞与
  • 賞与の他臨時的に支払われる賃金
  • 解雇予告手当
  • 賃金の遅延利息
  • 年末調整の税金の還付金
  • 慰労金や祝金名目の恩恵的または福利厚生上の給付
  • 実費弁償としての旅費や用品代 など

制限5.立替払いされる限度額は?

原則、「未払賃金総額80%」です。

但し、「未払賃金総額」には、退職日におけるあなたの年齢に応じた限度額が設定されています。
この限度額を超える場合には「限度額80%」となります。

退職日における年齢限度額立替払上限額
限度額の80%
45歳以上370万円296万円
30歳以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円

5.未払賃金の立替払事業の利用(請求)手順は?

少し話が逸れますが……
国や各自治体が用意してくれている救済措置のほとんどには、何かしらの障壁があります。

「申請書がわかりにくい、面倒」
「わざと難しくしているのではないか?と感じてしまうくらい専門用語が並んでいる」
「添付しなければならない書類が多過ぎる」
「そもそも、その制度(事業)自体が広く周知されていない」
などです。

そのため、専門知識を持っていない方が独力でその制度(事業)の恩恵を受けるまでには、大変な苦労を要さなければならないことも少なくありません。

そして、残念ながら、この「未払賃金の立替払事業」も同様で、独力での請求を断念してしまう方が多いです。

また、国(労働者健康安全機構)が立替払をしてくれると言っても、特に「法律上の倒産」の場合、その請求過程に最大の難関があります。

会社の管財人や清算人に、未払い賃金の存在を認めてもらい(認めさせ)、立替払請求の必要事項についての証明書を交付してもらわなければならないのです(詳しくは後述)。
よって、通常の残業代請求同様に、証拠や計算書などを準備しなければなりません

更に、管財人などの多くは、未払い賃金の不存在を主張してきます。
よって、通常の残業代請求同様に、労働基準法など関係法令に関する知識も必要と言わざるを得ません

……というわけで、このページでは、請求手順のアウトラインにだけ触れておきます。

未払賃金の立替払事業を利用したい方には、書類作成から申請まで、つまり、最初から最後までトータルサポートしてくれる専門家への依頼もお奨めしております。

5-1.法律上の倒産の場合の請求手順

手順1.裁判所や証明者に対して証明(承認)を申請

裁判所や証明者(下表)に対して、立替払請求の必要事項についての証明(承認)を申請します。
前記の通り、要は、未払い賃金の存在を認めてもらう必要があるということです。

倒産の区分証明者
破産破産管財人
特別清算清算人
民事再生再生債権者(管財人)
会社更生管財人
立替払請求の必要事項の全部または一部について証明を得られなかった場合、労働基準監督所長に対して、証明を得られなかった事項について確認申請ができるとされています。

手順2.請求に必要な書類の作成と送付

手順1にて証明書が交付されたら、請求に必要な書類(「立替払請求書及び退職所得の受給に関する申告書」「退職所得申請書」)を作成し、労働者健康安全機構に提出します。

5-2.事実上の倒産の場合の請求手順

手順1.労働基準監督署長に対して認定を申請

所轄の労働基準監督署に対して、会社が事業活動を停止し、再開の見込みがなく、且つ、賃金支払能力がない状態であることの認定を申請します。

認定の申請は、同じ会社に立替払請求者が2人以上いる場合、1人が認定を受ければ足り、その認定効果は他の退職者にも及びます。

手順2.労働基準監督署長に対して確認を申請

手順1にて認定通知書が交付されたら、労働基準監督署に対して、立替払請求の必要事項についての確認を申請します。

手順3.請求に必要な書類の作成と提出

手順2にて確認通知書が交付されたら、請求に必要な書類(「立替払請求書及び退職所得の受給に関する申告書」「退職所得申請書」)を作成し、労働者健康安全機構に提出します。

 船員法第1条に規定する船員については、立替払請求書などの提出先が(労働者健康安全機構ではなく)地方運輸局になります。

6.立替払金の支払い

「法律上の倒産」「事実上の倒産」いずれの場合も、労働者健康安全機構にて、提出された書類が審査されます。

支払が決定した場合、労働者健康安全機構からあたなに、「未払賃金立替払決定・支払通知書(退職所得に関する源泉徴収票・特別徴収票を含む)」が送付され、請求時に指定した請求者本人名義の普通預金口座に立替払金が振り込まれます。

なお、租税特別措置法第29条の4の規定により、立替払金は「退職所得」として取り扱われ、他の所得と分離して課税されます
但し、下表の通り、退職所得については退職所得控除が認められていて、立替払請求書内の「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に記入押印がある場合には控除が受けられます。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
(80万円に満たない場合は80万円)
20年を超える800万円+70万円×(勤続年数-20年)
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