残業代の請求を検討している方の多くは「残業代は過去2年分しか請求できない」ことを知っています。

しかし、「過去2年分とはいつからいつまでの分を指すのか?」をきちんと理解している方は非常に少ないです。

退職日から2年前まで遡れると思ってました……顔面蒼白です!
退職から2年以内に請求すれば、在職中の残業代をすべて請求できるんですよね?

このような勘違いから、「請求アクションを起こそうと決心した時には、既に賃金請求権がほとんど消滅している状態だった」という方もいます。
賃金請求権が消滅するということは、残業代を請求する権利をなくしてしまうということです。

そうならないためにも、まずは「請求アクションを起こす期日(会社に請求書を発送する期日)」を見定めなければなりません
そして、その期日から逆算して、証拠の収集、残業代の計算、請求書の作成、あるいは、専門家への依頼を進めていくのです。

「請求アクションを起こす期日」の設定を間違えると、本来は過去2年分(24ヵ月分)を請求できたのに、23ヵ月分しか請求できなくなってしまうなどの事態に陥りかねません。

「1ヵ月分くらい……」と軽くお考えの方、本当にそうでしょうか?
残業の程度にもよりますが、多い方における1ヵ月分は10万円前後です。

退職の数ヵ月後に請求アクションを起こす方もいますが、その放置した数ヵ月の分だけ、請求権(請求額)は消滅しています。
退職後すぐに転職した方、体調が優れず療養している方などは、なかなか時間が取れないかもしれません。あるいは、離職票を受け取り、後腐れがなくなるまではアクションを起こしたくないという方もいるかもしれません。

しかし、「退職後くらい少しゆっくりしたいし……」程度に軽くお考えの方、本当に大丈夫でしょうか?
多い方における3ヵ月分は30万円前後です。世間一般的な月給額分を一瞬で損するかもしれないのに、ゆっくりしている場合でしょうか?

さて、少し煽るような表現をしてしまいましたが、このページでは、あなたの請求権を消滅させない(減少させない)ために、「過去2年分の定義」や「請求のタイミング」などを含めた「賃金請求権の時効」について解説します。

退職後数ヵ月も放置してしまっている方には、今すぐにでもアクションを起こすことをお奨めします。

1.賃金請求権は2年間有効です

労働基準法第115条には次のように定められています。

この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

労働基準法第115条(時効)

つまり、「残業代を含む賃金の請求権は2年の経過をもって時効により消滅する」ということです。

言い換えれば、「あなたには過去2年間分の賃金を請求する法的権利がある」ということです。

退職手当のみ時効は5年。

2.過去2年間の定義は?いつから、いつまでを指すのか?

このページでは、「あなたの給与支給日(給料日)が毎月25日」であるとして解説します。
あなたの給料日に読み替えて理解してください。

2-1.あなたの給料日が毎月25日である場合の時効例

例えば、2014年8月25日に支給されるべきであった賃金(残業代)の請求権は、2年後の、2016年8月25日に時効を迎え、消滅します。

例えば、2014年9月25日に支給されるべきであった賃金(残業代)の請求権は、2年後の、2016年9月25日に時効を迎え、消滅します。

つまり、給料日に賃金請求権が発生し、2年後の給料日に賃金請求権が消滅するのです。

賃金請求権の時効は、給料日を基準とした1ヵ月単位で推移します。日割り計算などもありません。
1ヵ月毎にスパッ、スパッと、賃金請求権の発生と消滅が繰り返されているのです。

3.時効の停止(中断)とは?

3-1.頭をよぎるひとつのリスク

さて、勘の良いあなたはこう思ったかもしれません。

残業代を請求した後も、会社との交渉に時間がかかってしまったら、その間にも、どんどん請求権が消滅(請求額が減少)してしまうってこと?
だとしたら、会社が意図的に(悪意をもって)交渉を長引かせて、支払額を減らすこともできるじゃん!?

結論から言ってしまえば、その心配はほとんど必要ありません。

確かに、前記の労働基準法第115条では請求(交渉)中の時間経過について触れられていませんし、交渉中も時効が進行するとすれば、会社が意図的に交渉を長引かせるという交渉術を用いてくるかもしれません。

ですので、そのような理不尽な事態を防ぐために、民法によって「時効の中断(停止)」という制度が定められています。

3-2.「時効の停止(中断)」とは?

「時効の中断(停止)」とは、「進行している時効を、ある事由をもって、中断(停止)させる」ことです。

さて、「時効」及び「時効の中断(停止)」については、主に民法第7章(時効)第1節にて定められていますが、ここでは残業代請求に大きく関係するものだけを引用します。

時効は、次に掲げる事由によって中断する。

  1. 請求
  2. 差押え、仮差押え又は仮処分
  3. 承認

民法第147条(時効の中断事由)

催告は、6ヵ月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事事件手続法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

民法第153条(催告)

前記条文を、残業代請求という紛争類型に置き換えて解釈すると、次の通りです。

  • 内容証明郵便に(注)よって相手方に請求(催告)することで、時効を6ヵ月間中断(停止)することができる。
注釈: 内容証明郵便とは?

内容証明郵便とは、簡易ではありますが、「誰が?」「いつ?」「どんな内容の?」手紙を発送したかを郵便局が証明しているくれる郵送方法であり、民法第147条における「請求」、並びに、民法第153条における「催告」としての効力を持ちます。

前記の民法153条は少し理解しづらいと思います。簡単に言えば、時効の中断(停止)を法的に成立させるためには、「内容証明郵便が相手方に到達してから6ヵ月以内に裁判所に提訴することなどが必要」ということです。詳細は後述しますので、ここでは読み飛ばしてください。

3-3.あなたの給料日が毎月25日である場合の時効例(「時効の中断」含む)

前記「2-1.あなたの給料日が毎月25日である場合の時効例」で例示した内容に、「時効の停止(中断)」という要素を加えて、再例示します。

時効の中断(停止)を利用しなければ

2014年8月25日に支給されるべきであった賃金(残業代)の請求権は、2年後の、2016年8月25日に時効を迎え、消滅します。

しかし、時効の中断(停止)を利用すれば

2016年8月24日(時効を迎える2016年8月25日の前日)中までに、内容証明郵便による請求(催告)書を相手方に到達させれば、到達後6ヵ月間は時効が中断(停止)します。
よって、更に6ヵ月間、2014年8月25日に支給されるべきであった賃金についても、継続(延長)して請求(交渉)することが可能となります。

時効の中断(停止)を利用すれば、後に消滅する2014年9月25日、同10月25日、同11月25日、同12月25日、2015年1月25日に支給されるべきであった賃金についても、同様に継続して請求(交渉)することが可能です。
但し、6ヵ月後、時効が再開した時点で、2014年8月25日~2015年1月25日に支給されるべきであった6ヵ月分の賃金請求権は時効の中断(停止)が利用されなかった状態に戻り一気に消滅します(厳密には細かい日数計算が必要ですのでイメージとしてお捉えください)。

4.賃金請求権、時効、時効の中断、内容証明郵便などすべてを含めて、あなたのアクションレベルに落とし込むと?

アクションレベルに落とし込むとすれば、次の通りです。

  1. 内容証明郵便による請求(催告)が相手方に到達してから最大5ヵ月程度は、裁判外での示談交渉。
  2. 5ヵ月程度を経過しても和解の可能性を見出せなければ、提訴に踏み切る。
請求0日目 内容証明郵便による請求(催告)が相手方に到達
~請求5ヵ月目 示談交渉
  • 書面やり取りによる交渉
  • 労働基準監督署を仲介とした交渉
  • その他、裁判外での交渉
請求5ヵ月目~ 裁判所への提訴の準備
~請求6ヵ月目 裁判所へ提訴

提訴すれば、いわゆる裁判中も時効は中断されたままです。
提訴には「労働審判手続きの申立て手続き」を含みます。

「労働基準監督署への申告」は「裁判所への提訴」とは異なります
「労働基準監督署への申告(労働基準監督署を仲介とした交渉)」も交渉の戦術に用いたい場合、原則、示談交渉期間(最大5ヵ月程度)中に、申告から調査、結論付けまでを完遂させる必要があります。
労働基準監督署を仲介とした交渉については『労働基準監督署に行っても取り合ってもらえない?その理由とは?』で解説しています。

なお、これまでは「内容証明郵便による請求(催告)が届いた」という事象だけで、使用者(会社)に心理的なプレッシャーを与えることができていました。しかし、残業代請求がブームになり始めた2011年8月頃から、内容証明郵便による請求(催告)ではプレッシャーを与えられず、無視する使用者もいるくらいです。

そのため、ガチガチに理論武装した長文にする必要はありませんが、あまりにも素人染みた文面にならないよう気を付けてください。

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