2017/09/22
管理職にも残業代を!「名ばかり管理職」「管理監督者」の定義
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今日は「名ばかり管理職」について解説します。
「名ばかり管理職」というフレーズを聞いたことがある方は多いはずですが、具体的にどのような人を指すかはわかりますか?
肩書は立派なのに給料が安い人?
それとも、一般社員よりも遅くまで働いている部長?
……そのような場合にも使えそうなフレーズですが、昨今取り沙汰されている「名ばかり管理職」の意味はそうではありません。
『「管理職だから残業代は支払わないよ」と不当な扱いを受けている人』を指します。
「君は管理職(管理者)だから残業代は出ないよ。」
「そうなんですか?(労働基準法にも管理職には残業代が出ないって定められているらしいし、そういうものなんだろうな)」
※労働基準法にそのような定めはありません。
まったくの勘違いです!
上記のような説明があった場合、あるいは、そのように扱われている場合、あなたも「名ばかり管理職」に仕立て上げられている可能性が極めて高いです。
そもそも、「名ばかり管理職」問題が取り沙汰されるようになった経緯は次のようなものです。
- 「管理職には残業代を支払う必要がない」という都市伝説的な解釈が広まった。
- それなら「とりあえず肩書を管理職にしておけば残業代を支払う必要がない」という悪知恵が広まった。
- 結果、実態は管理職ではないのに、残業代の支払いを免れるためだけの名ばかり管理職が急増した。
- 未払い残業代の温床となったことから、問題視され取り沙汰された。
つまり、会社から「管理職だから残業代は出ない」と説明されたとしても、それが法的に正しいとは言い切れないということです。
「私の経験則から言えば、残業代が支払われていない管理職の90%以上が「名ばかり管理職」です。実は残業代を請求できるということを認識してください。」
このページでは、「名ばかり管理職」に仕立て上げられていないかどうかの判断基準を解説します。
このページの目次
1.管理職には残業代を支払う必要がないという誤解の原因は?
では、なぜ「管理職には残業代を支払う必要がない」という都市伝説的な解釈が広まったのか?
これは、労働基準法第41条の定めに起因します。
労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
- 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)抜粋
この「監督若しくは管理の地位にある者」は、「管理監督者」と呼称されます。
そして、「管理監督者」は、労働者ではなく使用者として扱われることから労働基準法の保護を受けず、「残業」や「休日出勤」の概念がありません。
※実際は管理監督者も労働者です。ニュアンスとして使用者寄りとして捉えてください。
つまり、「管理監督者には残業や休日出勤の概念がない」という条文の趣旨が、「管理職(管理者)には残業代を支払う必要がない」という間違った趣旨に解釈されたものが、名ばかり管理職問題の原因と言えます。
また、「年次有給休暇」も一般的な労働者と同様に付与されなければなりません。
2.「管理監督者」と「管理職(管理者)」の違い
そもそもの問題は、「管理監督者(監督若しくは管理の地位にある者)」と「管理職(管理者)」が同じものと捉えられていることです。
「管理監督者」と、世間一般で言う「管理職(管理者)」は全く別のものです。
2-1.管理監督者とは?
労働基準法41条(前記)で定められた、「労働基準法の保護を受けない、言い換えれば、労働時間、休憩、休日の制限を受けない」者です。
2-2.管理職(管理者)とは?
会社内で定められた、「部下を管理する立場にある」者です。
つまり単なる管理職(管理者)である場合、労働基準法の保護を受け、労働時間、休憩、休日の制限を受けることになります。
3.管理監督者の判断基準
前記の通り、会社内で独自に定められた管理職(管理者)の全員が管理監督者に該当するわけではありません。
仮に「店長」「所長」「部長」「課長」などの役職名を与えられていたとしても、役職名などではなく、主に下記の3項目の実態に基づき総合的に判断されることになります。
- 職務内容、責任と権限
- 勤務態様
- 待遇
「現在、管理監督者に該当するか否かを事前に判断したり認定したりする機関や手続きはありません。言い換えれば、(残業代を請求され)裁判に移行して初めて法的に判断されることになります。そのため、悪意なく本心から管理監督者に該当すると扱っていても、結果、管理監督者に該当しないケースもあるのです。」
では、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかの判断基準(前記3項目)を、順に解説していきます。
3-1.職務内容、責任と権限
労働時間、休憩、休日などの制限の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有しているかどうか?
前記の通り、管理監督者は労働者ではなく使用者寄りの立場です。
そして、使用者寄りの立場であれば、経営者に代わって同じ立場で、あるいは、一体的な立場で仕事をすることになります。
経営者と一体的な立場で仕事をするということは、経営者から管理監督や指揮命令にかかる一定の権限を委ねられていなければなりません。
「判例(-東和システム事件- 東京高判平21.12.25)にて、「会社全体の経営への関与までは必要なく、ある部門の統括的な立場にあれば管理監督者に該当する」という判断基準も示されています。」
- 自らの裁量で行使できる権限がまったくない。
- 自らの裁量で行使できる権限が少ない(多くの事案について上司に決裁を仰ぐ必要がある)。
- 経営会議など会社の経営に関する重要な会議に出席していない。
- 上司からの指示を部下に伝達しているに過ぎない。
- 人事考課(昇給、昇格、賞与を決定するための評価)制度がある場合に、部下の人事考課に実質的に関与していない。
- 店舗における勤務割表(シフト表など)の作成や残業の命令を行う責任と権限が実質的にない。
- 店舗に所属するアルバイトやパートなどの採用(人選)に関する責任と権限が実質的にない。
- 店舗に所属するアルバイトやパートなどの解雇に関する責任と権限が実質的にない。
3-2.勤務態様
出勤時刻や退勤時刻、勤務時間について制限を受けていないか?
管理監督者は、経営者と一体的な立場で仕事をしていることから、時を選ばず経営上の判断や対応を求められます。
労務管理の観点から、一般的な労働者(従業員)とは異なる立場に立つ必要もあります。
そのため、管理監督者の出勤時刻や退勤時刻を厳密に定めることはできません。
また、管理監督者の前提は「労働時間、休憩、休日の制限を受けない」ですから、逆説的にも、勤務時間の制限を受けず、出退勤時刻も裁量に任されている必要があります。
- 遅刻や早退による人事考課への悪影響、罰則や罰金がある。
- 所定労働時間(営業時間)中は会社(店舗)に常駐しなければならない。
- アルバイトやパートなどの人員が不足した場合に、代わりに自ら業務に従事しなければならない。
3-3.待遇
地位にふさわしい待遇がなされているか?
管理監督者は、その職務の重要性や責任から、給料その他待遇について、一般的な労働者(従業員)と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。
- 「管理監督者としての給料」より、「同会社内の一般的な労働者としての(残業代が支払われる)給料」の方が高額である。
- 「管理監督者としての給料を実際の労働時間によって時給換算した額」より、「同会社内のアルバイトやパートなどの給料額」の方が高額である。
「私の経験則上、この待遇(給料額)は非常に重要な判断基準です。なぜなら、前記の「職務内容」「勤務態様」は人によって(極論、裁判官によっても)判断が変わる定性的なものですが、「給料額」はある程度定量的に判断できるからです。」
なお、前記の事例は「同会社内」での比較による判断でしたが、同会社内に限らず、「社会一般的」での比較が用いられることもあります。
例えばですが、「20~30代に対する月給50万円」という待遇は、同年代の一般的なものに比較すれば明らかに高待遇です。
このような場合、「職務内容」「勤務態様」が管理監督者の判断基準を満たしていなくとも(程度による)、管理監督者に該当すると評価されることもあるということです。
4.管理監督者に関する判例(裁判例)
管理監督者に該当するか否かは、役職名などではなく、前記の「職務内容、責任と権限」「勤務態様」「待遇」の実態に基づき総合的に判断されることになるとお話しました。
しかし一方で、現在、管理監督者に該当するか否かを事前に判断したり認定したりする機関や手続きがないこともお話しました。
つまり、「総合的に判断される」「でも事前には判断してもらえない」という、使用者としても労働者としても、やや難解な状況であると言えます。
では、どうするか?
判例法理を参考にケーススタディするしかありません。
本項では、「管理監督者性が否定された判例」及び「肯定された判例」を例示していきます。
使用者の観点からは「自社で管理監督者と扱っている従業員がいるがそれは適法か?」を、労働者の観点からは「管理監督者として扱われ残業代が支払われていないがそれは適法か?」を事前に判断できるよう、できるだけ多くの判例(裁判例)を例示しますので参考にしてください。
4-1.管理監督者性が否定された判例
日本マクドナルド事件
役職
マクドナルドの店長
管理監督者に該当しないポイント
- アルバイト採用の権限、シフト表作成の権限、残業を命令する権限があった。
- しかし、経営者と一体的な立場で仕事をしていた(企業全体、あるいは、ある部門全体の運営に関与していた)とは言えない。
(東京地判平20.1.28)
レストランビュッフェ事件
役職
ファミリーレストランの店長
管理監督者に該当しないポイント
- 店長として、コック、ウェイターなどの従業員を統括していた。
- 採用にも一部関与していた。
- 店長手当の支給を受けていた。
- しかし、従業員の労働条件は経営者が決定していた。
- 店舗の営業時間に拘束され、出退勤の自由はなかった。
- 仕事内容は、店長としての業務の他、コック、ウェイター、レジ、清掃など店舗運営全般に亘っていた。
(大阪地判昭61.7.30)
インターパシフィック事件
役職
ベーカリー部門及び喫茶部門の店長
管理監督者に該当しないポイント
- 売上金の管理、アルバイト採用の権限はなかった。
- 勤務時間の定めがあった(タイムカードにも打刻していた)。
- 同会社内の一般的な従業員としての給料しか支払われていなかった(相当の役職手当などは支払われていなかった)。
(大阪地判平8.9.6)
マハラジャ事件
役職
インド料理店の店長
管理監督者に該当しないポイント
- 店長としての管理業務にとどまらず、一般的な店員と同様の接客、掃除などの業務が大部分を占めていた。
- 店員の採用、労働条件の決定の権限がなかった。
- 店舗の営業時間に拘束され、出退勤の際に必ずタイムカードを打刻し、継続的に出退勤管理を受けていた。
- 管理職の地位に相応しい役職手当などの手当は支払われていなかった。
(東京地判平12.12.22)
風月荘事件
役職
喫茶店及びカラオケ店の店長
管理監督者に該当しないポイント
- 会社の営業方針や重要事項の決定に参画する権限がなかった。
- 店舗の人事権も有していなかった。
- タイムカードの打刻や勤務予定表の提出が義務付けられていた。
- 残業手当が支給されていた時期もあった。
- 日常の就労状況が査定の対象とされていた。
(大阪地判平13.3.26)
アクト事件
役職
飲食店のマネージャー
管理監督者に該当しないポイント
- 店長(アルバイトの採用などについて決定権を有する)を補佐していたにとどまる。
- 部下を査定する権限もなかった。
- 勤務時間に裁量はなく、アルバイト従業員と同様の接客や清掃も行っていた。
- 厚遇されておらず、役職手当などの諸手当も十分ではなかった。
(東京地判平18.8.7)
株式会社ぽるぷ事件
役職
書籍などの訪問販売を行う支店の販売主任
管理監督者に該当しないポイント
- 在籍する支店の営業方針を決定する権限はなかった。
- 販売計画などに関して同支店の各課長に対して独自に指揮命令を行う権限はなかった。
- タイムカードにより厳格な勤怠管理を受けていて、勤務時間について自由裁量を有していなかった。
(東京地判平9.8.1)
育英舎事件
役職
学習塾の営業課長
管理監督者に該当しないポイント
- 人事管理を含めた運営に関する管理業務全般の事務を担当。
- 裁量的な権限は認められていなかった。
- 出退勤について、タイムカードへの記録が求められ、他の一般的な従業員同様に勤怠管理されていた。
- 給料などの待遇も一般的な従業員と比較してそれほど高額とは言えなかった。
(札幌地判平14.4.18)
橘屋割増賃金請求事件
役職
取締役工場長
管理監督者に該当しないポイント
- 取締役に選任されていたが、役員会に招かれず、役員報酬も受け取っていなかった。
- 出退勤についても一般的な労働者と同様の制限を受けていた。
- 工場長という肩書きであったが形式的なものに過きず、工場の監督管理権はなかった。
(大阪地判昭40.5.22)
静岡銀行割増賃金等請求事件
役職
支店長代理相当職
管理監督者に該当しないポイント
- 通常の就業時間に拘束されていて、出退勤の自由がなく、勤務時間の自由裁量権がなかった。
- 人事や機密に関する事項に関与したことはなかった。
- 経営者と一体となって経営を左右するような仕事には携わっていなかった。
(静岡地判昭53.328)
サンド事件
役職
生産工場の課長
管理監督者に該当しないポイント
- 工場内の人事に関与することはあったが、独自の決定権はなかった。
- 勤務時間の拘束を受けていて、自由裁量の余地はなかった。
- 会社を代表して工場の事務を処理するような職務内容、裁量権限、待遇を与えられていなかった。
(大阪地判昭58.7.12)
彌栄自動車事件
役職
タクシー営業所の係長補佐及び係長
管理監督者に該当しないポイント
- 乗務員の出勤点呼、配車、苦情や事故対応などを行っていたが、懲戒処分や示談などの最終的な権限はなかった。
- 自らの業務内容、出退社時刻などについて裁量権がなかった。
- 会社の営業方針全般を決定する営業会議への出席を求められなかった。
(京都地判平4.2.4)
国民金融公庫事件
役職
業務役
管理監督者に該当しないポイント
- 関係職員の超過勤務命令について総務課長とともに支店長に具申する権限があった。
- しかし、経営方針の決定や労務管理上の指揮権限について経営者と一体的な立場にあったとまでは言えない。
- 出退勤の管理は一般職員と同様であった。
(東京地判平7.9.25)
キャスコ事件
役職
主任
管理監督者に該当しないポイント
- 室長、班長の指揮監督下にあり、一般職位の部下はいなかった。
- 業務も室長、班長の指揮監督下で行っていて、経営者と一体的な立場にあるとは言えない。
- 出退勤は記録によって管理されていた。
(大阪地判平12.4.28)
日本コンベンションサービス事件
役職
参事、係長、係長補佐などのマネージャー職
管理監督者に該当しないポイント
- 役職手当を受け、タイムカードによる打刻をしなくてもよく、それぞれの課や支店で責任者としての地位にあった。
- しかし、他の従業員と同様の業務に従事していた。
- 出退勤の自由はなく、時間配分が個人の裁量に任されていたとは考えられない。
(大阪高判平12.6.30)
東建ジオテック事件
役職
次長、課長、課長補佐、及び、係長
管理監督者に該当しないポイント
- 管理職会議で意見具申の機会はあるものの、経営方針に関する意思決定には関与していなかった。
- 一般的な従業員と同様に勤務時間を管理され、自由裁量に委ねられていなかった。
(東京地判平14.3.28)
リゾートトラスト事件
役職
係長
管理監督者に該当しないポイント
- 日常的な経理事務処理を担当していて、労働時間などの規制の枠を超えて活動することが当然とされるような職務内容ではなかった。
- 出勤簿と朝礼時の確認により一応の勤怠管理を受けていて、自由裁量があったとは認められない。
- 手当が「時間外勤務手当相当分として」支給されることが就業規則上明記されていた(手当が残業代として支払われていた)。
(大阪地判平17.3.25)
4-2.管理監督者性が肯定された判例
前提として、冒頭でお話した通り、残業代が支払われていない管理職の90%以上が「名ばかり管理職」です。
事実、管理監督者性が肯定された判例はほとんどありません。
「管理職(管理者)という理由から残業代が支払われていない場合、「本当は残業代が支払われるべきでは?」とまずは疑ってください。」
センチュリー・オート事件
役職
自動車の修理、整備点検などを業とする会社の営業部長
管理監督者に該当するポイント
- 管理業務(従業員のシフト表の作成、出欠勤の調整、出退勤の管理など)を行っていた。
- 経営会議(代表や各部門の精勤者のみが出席する会議)に出席していた。
- 人事権まではないが、部門長としての意向が反映され、判断や手続きの過程に関与していた。
- 遅刻や早退を理由に罰則や罰金されることはなかった(タイムカードを利用していた)。
- 代表、工場長(2名)に次ぐ高待遇(高給料)であった。
(東京地判平19.3.22)
姪浜タクシー事件
役職
タクシー会社の営業部長
管理監督者に該当するポイント
- 多数の乗務員を始動、監督する立場であった。
- 乗務員募集の面接、採否の判断に深く関与していた。
- 経営会議(取締役や主要な従業員のみが出席する会議)に出席していた。
- 専務に代わって、会社の代表として社外の会議に出席していた。
- 連絡をすれば外出先から直帰できたなど労働時間の制限を受けていなかった(多忙であり実際に自由にできる時間は少なかったがその裁量はあった)。
- 給料額が700万円余であり、同会社内では最高額であった。
(福岡地判平19.4.26)
医療法人徳州会事件
役職
人事第2課長
管理監督者に該当するポイント
- 看護師の募集業務において本部や各病院の人事関係職員を指揮命令する権限を与えられていた。
- 看護師の採否の決定、配置など労務管理について経営者と一体的な立場にあった。
- タイムカードを刻印していたが、実際の労働時間は自由裁量に任されていた。
- 時間外手当の代わりに責任手当、特別調整手当が支給されていた。
(大阪地判昭62.3.31)
5.管理監督者と深夜労働と年次有給休暇
管理監督者であっても、「深夜労働(午後10時から翌日午前5時までの労働)」の概念はありますので、深夜労働に対する割増賃金の支払いは免除されません。
また、「年次有給休暇」も一般的な労働者と同様に付与されなければなりません。
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