2017/09/22
困った!雇用契約書と就業規則の内容が違う場合の優先順位
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「雇用契約書」と「就業規則」、どちらもあなたの労働条件が記載された重要な書類です。
その違いを、イメージしやすいように表現するなら次の通りです。
- 雇用契約書(労働契約書など)は、「あなた」と会社の個別的な労働契約。
- 就業規則は、「従業員全員」と会社の包括的な労働契約。
では、記載された内容が異なる場合、どちらが優先されるのでしょうか?
それ以外にも、雇用契約書だけが存在しない場合や、途中でどちらかの内容が変更された場合など、優先順位を付けなければならない場面は多々あります。
優先順位を付けられなければ、正しい労働条件は把握できません。
正しい労働条件を把握できなければ、正しい残業代の計算は勿論、未払い残業代の有無すら判断できません。
このページでは、いくつかのケースを例示しながら、優先順位の付け方を解説します。
優先順位の付け方は非常に簡単ですので、いざという時、即座に判断できるよう理解を深めておきましょう。
このページの目次
ケース1.雇用契約書は存在しないが就業規則は存在する
労働契約法第7条によれば、下記のケースでは、就業規則の内容がそのままあなたの労働条件になります。
- 雇用契約書(労働契約書など)に詳細な労働条件が定められていない。
- 雇用契約書を締結していない。
- 就業規則に合理的な労働条件が定められている。
- 就業規則について実質的な周知の措置がとられている。
つまり、「雇用契約書を締結していないから特別な労働条件はない」と安易に結論付けてはならないということです。
雇用契約書を締結していなくとも、就業規則に合理的な労働条件が定められ、且つ、実質的な周知の措置がとられていれば、就業規則の内容がそのままあなたの労働条件になります。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。労働契約法第7条
特に、実質的な周知の措置に関しては、就業規則の性質を理解するうえでは非常に重要なポイントです。
ケース2.雇用契約書も就業規則も存在する
前記の労働契約法第7条の但し書き以降によれば、下記のケースでは、就業規則の内容が雇用契約書で定められたあなたの労働条件を補うことになります。
- 雇用契約書(労働契約書など)に詳細な労働条件が定められていない部分がある。
- 就業規則に合理的な労働条件が定められている。
- 就業規則について実質的な周知の措置がとられている。
つまり、「雇用契約書に定められていない部分に特別な労働条件はない」と結論付けてはならないということです。
なぜなら、上記【ケース1.雇用契約書は存在しないが就業規則は存在する】は勿論、本ケースのように雇用契約書に詳細な労働条件が定められていたとしても、極論、就業規則の内容を確認するまではどんな労働条件が隠されているか判らないためです。
「これが、私が「労働条件の全容を把握するためには、雇用契約書とあわせて就業規則の内容も確認しておかなければならない」と常に提言している理由に他なりません」
ケース3.雇用契約書も就業規則も存在するが、内容が異なる
雇用契約書に詳細な労働条件が定められている部分については、原則、就業規則よりも雇用契約書で定められている内容が優先されます。
しかし、労働契約法第12条によれば、雇用契約書にて定める内容は、就業規則にて定められた内容(基準)を下回ってはいけないとされています。
つまり、雇用契約書と就業規則の内容を比較し、内容が異なる部分があれば、労働者(あなた)にとって有利な方が優先されるというように理解しておけば問題ありません。
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
なお、これは、雇用契約書の内容(労働条件)が変更される場合にも同様です。
例えば、就業規則に給与額の定めがあったとして、労働条件(雇用契約書など)の変更により、それよりも低い賃金が定められた場合、就業規則で定める基準に達しない労働条件となるから無効となります。
※無効となるのは「就業規則で定める基準に達しない部分」のみであり、雇用契約書の内容すべてが無効になるわけではありません。
ですが、注意してください。
上記の、賃下げの例であっても、「どうせ無効だから」と異議を述べずに、引き下げられた低い額の賃金を受け取り続けていれば、黙示による同意(はっきりは言わず暗黙のうちに考えや意志を示すこと)をしたと判断される可能性があるということです。
判例(裁判例)に鑑みても、「労働者の自由意思による同意があれば(強制や強要による同意でなければ)、就業規則にて定められた内容を下回った労働条件であっても有効」と判断されたケースも少なくありません。
賃下げの例で言えば、1~3ヵ月分を受け取ったとしてもそう簡単に黙示による同意があったとは評価されませんが、「黙示による同意」という判断基準が存在することは忘れないでください。
ケース4.雇用契約書も就業規則も存在しない
常時使用(雇用)する労働者が10人未満の事業所においては、就業規則の作成義務が課されていないため、就業規則が存在しないということもありえます。
しかし、どのような理由にせよ就業規則が存在しなければ、雇用契約書(労働契約書など)によって労働条件が明示されていなければなりません。
よって、雇用契約書も就業規則も存在しないケースは、即ち、労働条件の明示義務違反となり、30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第120条第1号)。
なお、このページの冒頭で「正しい労働条件を把握できなければ、正しい残業代の計算は勿論、未払い残業代の有無すら判断できない」と言いましたが、本ケースでは優先順位以前に、何の労働条件も定められていないことになります。
このような場合、あなたの労働条件は、労働条件や待遇などの最低基準を定めた労働基準法に基づくことになります。
5.「雇用契約書と就業規則の内容が違う場合の優先順位」の5行まとめ
- 「雇用契約書(労働契約書など)は、あなたと会社の個別的な労働契約」であり、「就業規則は、従業員全員と会社の包括的な労働契約」と表現できる。
- 基本的には、雇用契約書と就業規則の内容を比較し、内容が異なる部分があれば、労働者(あなた)にとって有利な方が優先される。但し、「黙示の同意」という判断基準が存在することには注意が必要。
- 就業規則の内容が雇用契約書の内容を補うとこともある。場合によっては雇用契約書の代わりになることもある。
- よって、結局、労働条件の全容を把握するためには、雇用契約書だけではなく就業規則の内容も確認しなければならない。
- 雇用契約書も就業規則も存在しない場合、労働条件は、労働基準法に基づく。
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