労働基準法には「1日の労働時間は8時間以下、1週の労働時間は40時間以下」という基準が定められています。

そして、これを超えて労働させる場合には、原則、残業代を支払う必要があります。

これは大原則であるため、多くの人が知っています。

しかし、実は、1週の労働時間上限が(40時間ではなく)44時間まで認められる場合があることを知っていますか?

結論から言えば、勤務する事業場が「特例措置対象事業場」として認められる要件を満たしている場合、「1日の労働時間は8時間以下、1週の労働時間は44時間以下」として扱われる場合があるのです。

「1週で4時間増えるくらいなら影響はないでしょ?」

「残業代を請求した後に特例措置対象事業場に該当することが判明し、「請求額がこんなに下がるなんて……」とショックを受ける方も少なくありません。この機会にしっかりと理解しておきましょう。」

このページでは、1週4時間の差が残業代(額)に及ぼす影響、特例措置対象事業場の成り立ち、週44時間労働制を採用する具体的な方法までのすべてを解説します。

1.1週4時間の差が残業代請求に及ぼす影響

「1週で4時間増えるくらいなら大して影響しないでしょ?」と誤解している人の目を覚ますために、試算をしてみます。

特例措置対象事業場(44時間)と、一般的な事業場(40時間)の、1週当たりの差は4時間です。

1年当たりの差は208時間です。
※365日÷7日≒52週、52週×4時間=208時間。

2年当たりの差は416時間です。
※208時間×2=416時間。
残業代を含む未払い賃金の請求時効は2年ですから、請求対象は最大で2年分です。

よって、割増時給(残業1時間当たりの時給)を1,000円としても、2年間の差額は416,000円にもなります。

なお、割増時給1,000円は最低ラインでの設定であり、一般的には1,500円以上となります。
1,500円とすれば、その差額は624,000円にもなります。

やや気持ちを煽るような書き方をしてしまったので、補足します。

特例措置対象事業場として認められる要件を満たしていれば、あなたがどんなにジタバタしたところで覆るものではありません。

このページの趣旨は、特例措置対象事業場に該当するかをきちんと把握し、「請求できない残業代」を「請求できる残業代」と誤解することのないようにしましょう!というものです。

そのように誤解してしまうと、上記試算の通り、最低でも400,000円ほど請求額を高く見積もってしまうからです。
請求できると思っていた額が下がれば、非常にガッカリしてしまいます。

2.特例措置対象事業場の成り立ち

なぜ、特例措置対象事業場においてのみ、1週の労働時間が44時間まで認められているのか?についても触れておきます。

勘違いしている方も多いですが、特例措置対象事業場のみ40時間が44時間に延びたわけではありません。
特例措置対象事業場だけが40時間に短縮されていないのです。

つまり、負の遺産とも言えます。

そもそも、昭和63年3月までは、1週の労働時間は48時間でした。

その後、業種や規模(従業員数)によって時期や内容は異なりますが、段階的に労働時間の短縮が進められてきました。

そして、平成9年4月に週40時間制が全面実施されました。

……そうです、特例措置対象事業場を除いての、全面実施です。

特例措置対象事業場における最近の短縮は、平成13年4月です。

この際に上限46時間から上限44時間に短縮され、また、1ヵ月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制との併用(後述)も認められました。

さて、特例措置対象事業場として週44時間労働制を採用している事業場はどのくらいあると思いますか?

現在、特例措置対象事業場として認められる要件を満たしている事業場の内、週44時間労働制を採用している事業場はたったの20%です。

言い換えれば、残りの80%は、特例措置対象事業場として認められる要件を満たしているにも拘らず、週40時間労働制のままにしているということです。

業種別に見れば、週44時間労働制を採用している事業場が50%を超えている業種もありますが、これらのパーセンテージは10年ほど変化がありません。

会社からしてみれば、「所定労働時間が増える=残業時間(代)が減る」というメリットもありますが、一方で、特に昨今の労働者の価値観やライフスタイルの多様化から、「なんでうちの会社だけ44時間なの?」という不満が生まれるというデメリットも想定されます。

このような経緯や背景から、正に負の遺産であるとして、特例措置対象事業場の範囲縮小、時間数短縮などの検討も進められているのが実情です。

もっとも、残業代請求を検討しているあなたにとっては、未来の改正予想よりも、今現在の内容をしっかりと理解する方が優先ですので、話を元に戻します。

3.特例措置対象事業場として認められる要件

労働基準法施行規則第25条の2、及び、労働基準法別表第1によれば、特例措置対象事業場として認められる要件は下記の2つです。

3-1.従業員数の要件

常時使用する労働者が10人未満の事業場

ポイントは、労働者数は「事業場」単位でカウントするということです。

具体的な解釈は下記の通りです。

  • 本社、支店、店舗A、店舗B、などのように事業場が独立しているのであれば、あなたが勤務している事業場のみの労働者数で判断する。
  • 正社員以外の、アルバイト、パートタイマー、契約社員なども含めてカウントする。
  • 常態として使用している労働者をカウントする。つまり、店舗などであれば、たまたまシフトインしている労働者ではなく、日常的にシフトインするすべての労働者数で判断する。

3-3.業種の要件

下記の業種に該当する事業場。

  • 商業(卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、駐車場業、不動産管理業、出版業(印刷部門を除く)、その他の商業)。
  • 映画・演劇業(映画の映写(映画の製作の事業を除く)、演劇、その他興業の事業)。
  • 保健衛生業(病院、診療所、保育園、老人ホームなどの社会福祉施設、浴場業(個室付き浴場業を除く)、その他の保健衛生業)。
  • 接客娯楽業(旅館業、飲食店、ゴルフ場、娯楽場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業)。

使用者は、法別表第1第8号、第10号(映画の製作の事業を除く。)、第13号及び第14号に掲げる事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、法第32条の規定にかかわらず、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。

労働基準法施行規則第25条の2(抜粋)

  1. 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
  2. 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
  3. 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
  4. 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
  5. ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
  6. 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
  7. 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
  8. 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
  9. 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
  10. 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
  11. 郵便、信書便又は電気通信の事業
  12. 教育、研究又は調査の事業
  13. 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
  14. 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
  15. 焼却、清掃又はと畜場の事業

労働基準法別表第1

4.週44時間労働制を採用する具体的な方法

現在、多くの会社(事業場)で採用されている所定労働時間は、週40時間労働制(8時間×5日)です。

対して、週44時間労働制を採用する場合、どのような所定労働時間を設定することができるのでしょうか。

一般的には下記の4つです。

採用方法1.6日目の労働時間を4時間以下にする(週休1日制)

1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目
8時間 8時間 8時間 8時間 8時間 4時間 休日

採用方法2.毎日の労働時間を7時間20分以下にする(週休1日制)

1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目
7時間20分 7時間20分 7時間20分 7時間20分 7時間20分 7時間20分 休日

採用方法3.1ヵ月単位の変形労働時間制と併用

「1ヵ月単位の変形労働時間制」と併用することで、更に「1日の労働時間は8時間以下」という上限を超えて労働させることができます。

具体的には、小売店や飲食店など1ヵ月毎にシフトを組む事業場に適していて、特定の日には8時間を超えた労働のシフトを組むことも可能になります。

1ヵ月単位の変形労働時間制を採用したからといって、上限なく労働時間を増やせるわけではありません。詳しくは『1ヵ月単位の変形労働時間制とは?(執筆予定)』にて解説します。
「1ヵ月単位の変形労働時間制」との併用は可能だが、「1年単位の変形労働時間制」との併用は不可

「1ヵ月単位の変形労働時間制」に似た、「1年単位の変形労働時間制」という制度もありますが、これとの併用はできません。1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、特例措置対象事業場として認められる要件を満たしていても、1週の労働時間上限は40時間となります。1年単位の変形労働時間制については『1年単位の変形労働時間制を採用する経営者のキモチ』にて解説しています。

また、同様に「1週間単位の非定型的労働時間制」との併用もできません。1週間単位の非定型的変形労働時間制については『労働時間(残業時間)の定義を知っておこう』で解説しています。

採用方法4.フレックスタイム制と併用

フレックスタイム制と併用することで、更に「1日の労働時間は8時間以下」という上限を超えて労働させることができます。

具体的には、労働時間を画一的に定めない方が効率的とされる職種(研究開発業務、デザイナー、設計業務など)に適していて、1日の始業及び終業時刻を労働者の決定に委ねることによって8時間を超えて労働させることも可能になります(反対に労働者の判断によっては8時間未満の労働となる日もあります)。

フレックスタイム制を採用したからといって、上限なく労働時間を増やせるわけではありません。詳しくは『フレックスタイム制の仕組みと残業代』で解説しています。

5.週44時間の特例措置対象事業場は残業代41万円以上の損!の5行まとめ

  1. 特例措置対象事業場として認められる2つの要件を満たしていれば、週44時間労働制を採用できる。
  2. 要件のひとつは、常時使用する労働者が10人未満の事業場であること。
  3. 要件のひとつは、労働基準法にて定められた業種に該当する事業場であること。
  4. 1ヵ月単位の変形労働時間制、または、フレックスタイム制と併用すれば、「1日の労働時間は8時間以下」という上限を超えて労働させることもできる。
  5. 特例措置対象事業場として認められる要件を満たしていても、週40時間労働制のままにしている会社が多い。