2017/09/22

強い労働基準監督署が帰ってきた!300社以上のブラック企業名を公表中

 

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残業代や残業代請求の様相をガラッと変えてしまうかもしれません。

労働局労働基準監督署が、ブラック企業名を本格的に公表し始めたのです。

強い労働基準監督署(以下、労基署)が帰ってきました。

1.強い労基署があなたに与える影響

最も重要なことからお話します。

ブラック企業名が公表されることには、未払い残業代を含め、労働問題に悩んでいる労働者へのメリットしかありません。

次の好転が期待できるからです。

まず、使用者(経営陣)らが、労基署を恐れるようになる

語弊を恐れず表現しますが、これまでの労基署はなめられていました。

━なめていた社長
労基でもなんでも訴えてくださいよ(強制力がないんだから無視しても、強硬に拒否しても問題ないし)。
━恐れる社長
え、公表されてる会社がある!きちんと対応しないと会社名が公表されるって……それは会社の評判が落ちるから死活問題だ。
そして、示談交渉がやりやすくなる

未払い残業代などの請求書には、「きちんと対応してくれなければ労働基準監督署に相談、申告する」旨の一文を付記することが多くありますが、これは定型文のようなもので、正直、相手方にプレッシャーを与えるには至らないものでした。

しかし、使用者が労基署を少しでも恐れるようになれば、この一文が非常に有効になってきます。

つまり、専門家に依頼する必要がなくなる(?)

ケースバイケース、相手方の規模(後述)や事件の難易度、請求対象にもよるため、依頼する必要がまったくなくなるということはありません。
ですが、専門家に依頼しなくても解決できる事件は間違いなく増えます。

いかがでしょうか。
あなたにメリットしかない労基署のレベルアップに興味が湧きませんでしょうか。

請求を検討しているあなたが示談交渉を有利に進めるためには、少なくとも、何がどうなれば企業名が公表されるのか?あなたの相手方は公表の対象になり得るのか?くらいは知っておくべきです。

2.指導・企業名公表の目的

指導強化の目的:

都道府県労働局長又は労働基準監督署長より以下の指導を行うことにより、複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業において、経営トップが当該企業の違法な長時間労働などの問題点を十分理解した上で、自ら率先して、全社的な早期是正に向けた取組を行い、当該企業全体の法定労働条件の確保・改善を図るようにすること。

企業名公表の目的:

公表は、その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的とし、対象とする企業に対する制裁として行うものではない。

いずれも、通達『違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について(平成29.1.20 基発0120第1号)』から引用

3.企業名が公表されるまでの経緯(労基署レベルアップの経緯)

今現在も多数の企業名が公表されているわけですが、ここに至るまでにはそれなりの紆余曲折や苦労がありました(と思う)。

それらの経緯もきちんと知っておいてほしい(と思う)ので、時系列で見てみます。

話は2年前にさかのぼります……

平成27年5月18日

  • 「平成27年度臨時全国労働局長会議」にて、企業名の公表などについての方針決定。
  • 通達『違法な長時間労働を繰り返し行う企業の経営トップに対する都道府県労働局長による是正指導の実施及び企業名の公表について(平成27.5.18 基発0518第1号)』発出。

実は、この日から企業名の公表制度が始まっていたということです。

これより前にも、「書類送検」された場合には企業名が公表されていました。しかしこれ以降は、送検される前段の「是正指導段階」でも企業名を公表すると決定、発出(実施)したのです。これが最大のレベルアップです。

指導・公表の対象となる条件(強化前)

これら条件は平成29年1月20日に強化されることになります(後述)。

━どんな企業が?

複数の事業場を有している社会的に影響力の大きい企業
具体的には、複数の事業場を有し、且つ、中小企業基本法に規程する中小企業者に「該当しない」企業
つまり、いわゆる大企業。

中小企業の定義
これに該当しない企業が、指導・公表の対象。

中小企業庁 FAQ「中小企業の定義について」から引用

━どんな違反を?

違法な長時間労働
具体的には、労働基準法第32条、第35条、第37条、第40条違反があり、且つ、1ヵ月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超える長時間労働

━誰に対して?

相当数の労働者
具体的には、1ヵ所の事業場において10人以上の労働者、または、当該事業場の4分の1以上の労働者

━何回したら?

一定期間内に複数の事業場で繰り返される
具体的には、概ね1年程度の期間に3ヵ所以上の事業場で行われる。

労働基準法第32条、第40条違反とは?
時間外や休日労働協定(36協定)で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせるなど。

労働基準法第35条違反とは?
36協定に定める休日労働の回数を超えて休日労働を行わせるなど。

労働基準法第37条違反とは?
時間外や休日労働を行わせているにもかかわらず、割増賃金を支払っていないなど。

36協定については、『とっても大事なサブロク(36協定)の免罰的効果』にて詳しく解説しています。

平成28年4月1日

  • 「第3回 長時間労働削減推進本部」にて、労基署による重点監督対象の拡大などについての方針決定。
  • 監督(指導)対象を月間残業時間100時間超から月間80時間超の企業に拡大(月間残業時間80時間は過労死認定基準と同等)。

平成28年12月26日

  • 「第4回 長時間労働削減推進本部」にて、前記第3回の決定などを基に「「過労死等ゼロ」緊急対策」が決定。

平成29年1月20日

  • 「「過労死等ゼロ」緊急対策」の内、主に「是正指導」や「是正指導段階での企業名公表制度」の強化についてまとめた通達『違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について(平成29.1.20 基発0120第1号)』発出。
  • 伴い、平成27年5月18日に発出された旧通達『違法な長時間労働を繰り返し行う企業の経営トップに対する都道府県労働局長による是正指導の実施及び企業名の公表について(平成27.5.18 基発0518第1号)』廃止。

この日から、前記の「指導・公表の対象となる条件(強化前)」を、「指導・公表の対象となる条件(強化後)」に変更、実施することになったということです。更にレベルアップです。

指導・公表の対象となる条件(強化後)

本項の内容が、冒頭で投げかけた「何がどうなれば企業名が公表されるのか?」の答えです。

強化された箇所は朱字で記載。

━どんな企業が?

複数の事業場を有している社会的に影響力の大きい企業
具体的には、複数の都道府県に事業場を有し、且つ、中小企業基本法に規程する中小企業者に「該当しない」企業

━どんな違反を?

違法な長時間労働
具体的には、労働基準法第32条、第35条、第37条、第40条違反があり、且つ、1ヵ月当たりの時間外・休日労働時間が80時間を超える長時間労働※強化前は100時間

━誰に対して?

相当数の労働者
具体的には、1ヵ所の事業場において10人以上の労働者、または、当該事業場の4分の1以上の労働者

または

被災労働者 ※強化前は対象外
具体的には、過労死「など」に係る労災保険給付の支給決定事案の被災労働者

━何回したら?

一定期間内に複数の事業場で繰り返される
具体的には、概ね1年程度の期間に2ヵ所以上の事業場で行われる。※強化前は3ヵ所

その他の条件(強化後)

次の3つの組み合わせの場合も、指導・公表の対象となります。

  • 概ね1年程度の期間に違法な長時間労働(月間100時間)を相当数の労働者にさせ、且つ、別の事業場で違法な長時間労働(月間80時間)を被災労働者(過労死「のみ」)にさせた場合。
  • 概ね1年程度の期間に2ヵ所以上の事業場で違法な長時間労働(月間80時間)を被災労働者(過労死「のみ」)にさせた場合。
  • 態様が同程度に重大、悪質と認められる場合。
厳密に言えば、指導は労働局と労働基準監督署が行いますが、公表は労働局が行います。また、これら条件に関する是正勧告にきちんと従えば公表には至りません。

指導・公表の対象となる条件を図にまとめると

指導・公表の対象となる条件を図にまとめると次のとおりです。
文字が読みにくいかもしれませんが、全体的なイメージを掴めると思います。

厚生労働省の資料『「過労死等ゼロ」緊急対策』から引用

4.実際に公表されている企業を見てみよう

4−1.300以上のブラック企業名を公表

平成27年5月18日に企業名の公表制度が始まったわけですが、最初の企業名が公表されたのは平成28年5月19日でした。
1年間でわずかに1社しか公表されなかったということです(該当1社は千葉県の棚卸し代行業)。

この頃は、「1年で1社では一罰百戒(1人の罪や過失を罰することで、他の多くの人々が同じような過失や罪を犯さないよう戒めとすること)の効果はない」と叩かれもしたようです。

しかし、平成29年5月10日には一気に300社以上のブラック企業名が公表されました。

企業名の公表期間は概ね1年であるため、ここでは実名掲載は控えますが(厚生労働省が既に削除しているものを、当サイトに掲載していては理不尽だから)、「え?こんな有名企業まで?!」という感想です。

公表ファイル: 労働基準関係法令違反に係る公表事案

公表ファイルが開けない場合はこちら
公表ファイルが掲載されるページ: 厚生労働省の公式サイト 長時間労働削減に向けた取組ページ

4−2.公表される情報は?

前記の公表ファイルの通り、次の情報が公表されます。

  1. 企業・事業場名称
  2. 所在地
  3. 公表日
  4. 違反法条項
  5. 事案概要
  6. その他参考事項

4−3.公表される期間は?

毎月定期に公表(更新)され、公表期間は公表日から概ね1年間です。
公表日から1年が経過し最初に到来する月末に削除。
1年未満であっても、公表を続ける必要性がなくなったと認められる場合や、是正及び改善が確認された場合には削除。

5.とは言え、労基署はすぐに動いてくれるわけではない

ここまでの話の流れや勢いから、とてもポジティブに解釈してしまう、つまり、誤解してしまう方がいるかもしれないため、補足しておきます。

よっしゃー、レベルアップした労基署に相談に行くだけですぐに解決してくれるっぽいな!
……けっこうな誤解があるようです。

労基署(厚生労働省、労働局)が、ブラック企業名を本格的に公表し始めたことで、良くも悪くも新しい時代に突入したと言えます。

ですが、レベルアップした労基署が真骨頂を発揮するのは、労基署が調査、指導、是正勧告に動き出してからです。

あなたが労基署に行き、「会社が残業代を支払ってくれないので勧告してください!」と相談しても、労基署の担当者からは次ような回答があるだけです。

まずは自分で請求してみてください。それでも支払われなければ調査をするか検討しますので……

労基署はすぐに動いてくれません。
労基署を動かすためには「自分で請求したが支払われなかったという事実」が必要なのです。

つまり、レベルアップした労基署の助力を得るためのステップは次の通りです。

  1. あなたが自分で未払い残業代を請求
  2. 会社が支払わない
  3. 労働基準法に定められた賃金が支払われない
  4. 労働基準法違反(の疑い)
  5. 労基署が調査、指導、是正勧告に動き出す

要は、あなたのお膳立てがなければ労基署は動け(か)ない、動けないから調査、指導、是正勧告もできない、ということです。
この点を誤解しないでください。

労基署を動かすためのお膳立てについては、『労働基準監督署に行っても取り合ってもらえない?その理由とは?』で詳しく解説してます。

6.最後に

「何がどうなれば企業名が公表されるのか?」について、理解いただけましたでしょうか。

まだ、いわゆる大企業に限定されるなど、相手方が公表対象になる方はそう多くないかもしれません。
しかし、厚生労働省、労働局や労基署は他の取組も実施していますので、更なるレベルアップに期待しています。

……そろそろ、平成29年度の労働基準監督官の採用試験が始まりますね(2017年度の受付は終了しています)。
厚生労働省の労働基準監督官採用試験のページ

慢性的に不足している労働基準監督官、今年度の採用予定は230人とのことですが、僭越ながら受験される方を応援しております!

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