1,500人以上からのご相談を受けていると、労働時間や残業時間の定義をきちんと理解できていない方が多いことを痛感します。

労働時間の定義を理解していなければ、労働時間を正しく計算できません。

労働時間を正しく計算できなければ、未払い残業代も正しく計算できません。

例えば、次の5つの質問に正答できるでしょうか。

質問1: 警備業務中の仮眠時間は労働時間?

質問2: 昼休みの電話番は労働時間?

質問3: 定時前の更衣(着替え)は労働時間?

質問4: 社外研修は労働時間?

質問5: 移動は労働時間?

質問6: 自宅に持ち帰った残業は労働時間?

正答できなかった人、あるいは、正答である自信がない人は、労働時間の定義を十分に理解できていない可能性が高いです。

このページでは、労働時間の定義を、労働時間に該当しないと誤解されることが多い事例を挙げながら解説していきますので、一緒に理解を深めていきましょう。

「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いなど、「初歩的なことを理解できていないかもしれない」という自覚がある方は『労働時間(残業時間)の定義を知っておこう』にて労働時間の全体像を掴むことから始めることをお奨めします。

そもそも労働時間の定義とは?

労働時間は、労働基準法によって定義されるのでしょうか?

いいえ、実は、労働基準法などには、労働時間を明確に定義する条文がありません。

労働時間は、会社ごとに定める労働契約や就業規則などによって定義されるのでしょうか?

いいえ、そうではありません。

労働時間は、「判例(裁判例)」や「判例法理(裁判所が示した判断の蓄積によって形成された考え方)」などから、客観的に定義されます

「……急に小難しい表現が出てきましたね。
判例法理などという表現を使うから、「法律=難しい=堅苦しい」というイメージが定着してしまうのです。
こんな表現を覚える必要はありません。あなたの長い人生の中で、「ハンレイホウリ」などと口にする機会はほとんどないでしょうから」

では、勿体ぶらずに、最低限押さえておいてほしいポイントだけ一気に解説します。

労働時間の定義は下記です。

  • 労働時間とは、労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間を指す。
  • 労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるか否かにより客観的に判断されるから、(会社ごとに定める)労働契約、就業規則などによって定義されるものではない。

これは、「三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12.3.9)」の判例によるものですが、判決から15年以上経った今現在も、労働時間に該当するか否かを判断するための最も有力な基準とされています。

この判例が、労働時間の定義(概念)を確立したと言っても過言ではありません。

労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。
労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。

三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12.3.9) 抜粋

さて、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指す」と言われても、「指揮命令下」という表現自体が一般的ではないため、イメージが湧かない方も多いと思います。

よって、以下、労働時間に該当しないと誤解されることが多い事例などを挙げながら、指揮命令下に置かれている状態をより鮮明にイメージできるようケーススタディしていきます。

もしかすると、あなたの状況と同じ、あるいは、酷似したケースがあるかもしれません。

事例1.手待ち時間

手待ち時間とは、次のような時間を指します。

  • 店員がお客を待っている待機時間
  • 運送業などの運転者が、貨物の積込、積卸のために待機している時間
  • ビル管理や警備業務中の仮眠時間(突発的な事態への対応が義務付けられている場合)
  • 昼休みの電話当番

手待ち時間とは、勤務時間でありながら、する仕事がなく、仕事の発生を待っている時間と言い換えることができます。

そして、ブラックな経営者は下記のように考えています。

「ほとんど休憩だし、利益も生まないし、給料は払いません!」

確かに、何もなければ休憩時間のようなものかもしれません。

しかし、労働者からしてみれば、「何かあるかもしれない」と気を張っていなければなりません。

労働基準法第34条3項などによれば、休憩時間とは労働からの解放が保障され、労働者が自由に利用できる時間です。

つまり、気を張り、何かあればすぐに稼働できる態勢で待機しているような時間は休憩時間ではなく、指揮命令下に置かれている時間と評価され、つまり、労働時間に該当すると判断される可能性が高いということです。

使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

労働基準法第34条3項(休憩)

では、もう少し深く掘り下げ、手待ち時間に関する判例や通達をいくつか押さえておきましょう。

裁判例.すし処「杉」事件(大阪地判昭56.3.24)

店舗でなどで客を待っている時間は手待ち時間であり、つまり、労働時間に該当すると判断された裁判例です。

状況:

  • 寿司店の板前見習い、及び、洗い場など裏方の業務に従事していた。
  • 休憩時間については、勤務時間中の客が途切れた時などを見計らって適宜休憩してよいと指示されていた。
  • 客が来店した際には(休憩中であっても)即時その業務に従事しなければならなかった。

判決の要旨:

  • 労働基準法第34条が定める休憩時間とは、労働からの解放が保障されている時間を言う。
  • 適宜休憩してよいと指示されていた時間は、客が途切れた時などに適宜休憩してもよいというものに過ぎず、労働基準法第34条が定める休憩時間ではない。
  • 単に手待ち時間とも言うべき時間があることを、休憩時間との名のもとに合意したに過ぎないから労働時間に該当する。

考え方:

休憩時間という名目であっても、即時に稼働できる態勢で待機しているような時間は手待ち時間であり、労働基準法第34条にて定められる休憩時間には該当しないとしています。

通達.厚生労働省の通達(昭和33.10.11基収6286号)

運送業などの運転手が、貨物の積込、積卸のために待機している時間は手待ち時間であり、つまり、労働時間に該当することが明文化された通達です。

労働とは、一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることをいい、必ずしも現実に精神又は肉体を活動させていることを要件とはせず、したがって、例えば、貨物取扱いの事業場において、貨物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合とか、運転手が二名乗り込んで交替で運転に当たる場合において運転しない者が助手席で休息し、又は仮眠しているときであってもそれは「労働」であり、その状態にある時間(これを一般に「手待時間」という。)は、労働時間である。

昭和33.10.11基収6286号

平成27年9月1日から、トラック運転者のフェリー乗船時間は原則としてすべて休憩時間として取り扱われることになりました。
これまでは、乗船時間の内、2時間(乗船時間が2時間未満の場合にはその時間)を労働時間とし、その他の時間は休憩時間として取り扱われてきましたが、近年のフェリー会社による乗船サービスの広がりなどに伴い、トラック運転者が乗船後に作業を行うケースが少なくなってきているなど、作業実態と乖離が生じてきていたためです。

判例.大星ビル管理事件(最一小判平14.2.28)

仮眠時間(突発的な事態への対応が義務付けられている場合)は手待ち時間であり、つまり、労働時間に該当すると判断された判例です。

状況:

  • ビル内巡回監視の業務に従事していた。
  • 拘束時間は24時間であり、この間に休憩時間と仮眠時間が与えられていた。
  • 休憩時間も仮眠時間も、仮眠室における在室、電話応対、警報に対応した必要な措置を義務付けられていた。

判決の要旨:

  • 実作業に従事していない仮眠時間(不活動仮眠時間)が労働時間に該当するか否かは、不活動仮眠時間において、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるか否かにより客観的に定まる。
  • 不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には、労働時間に該当する。
  • 不活動仮眠時間において、業務(在室、電話応対、警報に対応した必要な措置)の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとは言えない。
  • 業務の提供が生じることが皆無に等しいなど、実質的には義務付けられていないと評価できる実情も存在しないことから、労働時間に該当する。

考え方:

休憩時間や仮眠時間であっても、電話応対や警報に対応した措置が義務付けられていたのであれば、労働から解放されているとは評価できず、労働時間に該当するとしています。

一方で、電話応対や警報に対応した措置が発生しないと断言できるような実情(実態)が存在するなら、労働から解放されていると評価できる可能性もあるとしていることには注意してください。

裁判例.関西警備保障事件(大阪地判決平16.3.31)

何かあればすぐに稼働できる態勢で待機しているような時間は手待ち時間であり、つまり、労働時間に該当すると判断された裁判例です。

状況:

  • 警備員として警備業務に従事していた。
  • 拘束時間は18:00~9:00の15時間であり、この間に休憩時間(5時間)が与えられていた。
  • 休憩時間中は原則として車中で連絡応答し、制服を着用し、担当するユーザーの鍵の入った鞄を常に携行し、出動の指示があった場合には、即座にこれに対応しなければならなかった。

判決の要旨:

  • 携帯電話を持って待機し、出勤の指示(要請)に即座に対応することが求められていたことから、労働からの解放が保障されているとは言えない。
  • 休憩時間と言えるのは、食事の時間などせいぜい2時間であり、残り(3時間)は労働からの解放が保障された休憩時間とは言えないから労働時間に該当する。

考え方:

この裁判の相手方(会社)は、「本部管制から連絡を受けて出動した出勤は1日に1度あるかないかであり、拘束時間として特定できるものではないというのが実態」とも反論しましたが、この反論は退けられています。

これも上記【判例.大星ビル管理事件(最一小判平14.2.28)】同様に、本部管制から連絡を受けて出勤することがないと断言できる実情(実態)が存在すれば、労働からの解放が保障されていると評価されたかもしれません。

しかし、ひとつのポイントに「携帯電話の貸与」があります。
携帯電話を持って待機させている時点で、当然に、指揮命令下に置かれていると評価されるケースは非常に多いです。

「手待ち時間」の争いに限らず、「事業場外のみなし労働時間制」の争いなどにおいても、携帯電話の貸与は非常に重要な争点となります。事業場外のみなし労働時間制については『労働時間(残業時間)の定義を知っておこう』で触れています。

判例.大星ビル管理事件(最一小判平14.2.28)】及び【裁判例.関西警備保障事件(大阪地判決平16.3.31)】では、巡回監視員や警備員の業務に従事している場合の手待ち時間は労働時間に該当するとの判例を示しました。
一方で、警備業務に従事し、且つ、その業務が「監視又は断続的労働」として申請(許可)されている場合には、労働時間規制(1日8時間以下、1週40時間以下)の適用が除外されることに注意してください。
監視又は断続的労働に関しては『警備、交通誘導、監視など手待ち時間が長い業務には残業代がない?』を合わせて読むと理解が深まります。

事例2.電話当番や来客当番を兼ねる昼休みなどの休憩時間

ブラックな経営者は下記のように考えています。

「昼休みなんだから休憩時間でしょ……電話くらいは出てくれてもよくない?」

繰り返しですが、労働基準法第34条3項などによれば、休憩時間とは労働からの解放が保障され、労働者が自由に利用できる時間です。

また、厚生労働省の通達によれば、電話が鳴れば(来客があれば)すぐに稼働できる態勢で待機しているような休憩時間は、指揮命令下に置かれている時間と評価され、つまり、労働時間に該当すると判断される可能性が高いです。

休憩時間に来客当番として待機させていれば、それは労働時間である。

昭23.4.7基収1196号
昭63.3.14基発150号
平11.3.31基発168号

事例3.更衣(着替え)時間

ブラックな経営者は下記のように考えています。

「と言うか、そもそも着替えが終わってからタイムカードを押させてるし(笑)」

前掲の労働時間の定義(概念)を確立した「三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12.3.9)」によれば、次の場合には、更衣時間が指揮命令下に置かれている、つまり、労働時間に該当すると判断される可能性が高いです。

  1. 使用者から更衣が義務付けられている、または、更衣が余儀なくされている。
  2. 「社会通念上、必要」と認められるものである。

1の「更衣が義務付けられている」については、当然に労働時間です。

一方で、2の「社会通念上、必要」については少し補足しておきます。

例えば、作業服や保護具などの着用は、社会通念上、必要と言えます。
通勤したままのスーツ姿や、シャツに短パン姿で、工事現場や工場内などでの作業に従事するわけにはいきませんから、係る更衣(時間)は労働時間に該当する(社会通念上、必要)と判断される可能性が極めて高いということです。

しかし、例えば、事務職の制服の着用は、客観的に、社会通念上、必要であるとは断言できないことから、当該更衣時間が労働時間に該当すると判断されるとは限りません(1の更衣が義務付けられている場合には労働時間です)。

労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12.3.9) 抜粋

ここでは更衣時間を取り上げていますが、朝礼清掃なども、同じ考え方により、(使用者から義務付けられている場合には)労働時間に該当すると判断される可能性が極めて高いです。

事例4.研修や社員旅行の時間

ブラックな経営者は下記のように考えています。

「研修は従業員のスキルアップのためだから……あなたのためだから、むしろ金をもらいたいくらい」

「勉強会は自由参加だから(でも参加しない奴は評価を下げますがなにか?)」

「社員旅行も運動会も会社の金で遊んでるだけじゃん!」

厚生労働省の通達、及び、裁判例「八尾自動車興産事件(大阪地判昭58.2.14)」などによれば、下記の場合には、研修による残業や休日出勤、社員旅行による休日出勤などが指揮命令下に置かれている、つまり、労働時間に該当すると判断される可能性が高いです。

  • 参加が義務付けられている(強制されている)。
  • 表面上は強制ではないが、欠席すると罰則が科せられたり、昇給や賞与の査定に影響するなどの不利益が発生する(事実上の強制)。
  • 表面上は強制ではないが、出席しなければ業務に最低限必要な知識やスキルが習得できない(事実上の強制)。

労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない。

昭26.1.20基発2875号
平11.3.31基発168号

経営協議会の下に設けられた専門委員会は、概ね月一、二回程度教習第八部の終った午後四時五〇分から教習第九部の始まる午後五時二〇分までのうち少なくとも二〇分以上を費して開催されるのが通例であって、各専門当該委員会への出席は、被告会社における時間外労働に当る。
各専門種委員会は、被告会社の業務としてなされたものであって、原告らが各専門委員会に出席して活動した時間は、時間外の労働時間というべきであるから、これに対して、被告会社は割増賃金を支払う義務がある。

八尾自動車興産事件(大阪地判昭58.2.14) 抜粋

また、厚生労働省の通達によれば安全衛生法や消防法に基づく教育(訓練)も同様に、労働時間に該当すると判断される可能性が高いです。

労働安全衛生法第59条および第60条の安全衛生教育は、労働者がその業務に従事する場合の労働災害の防止をはかるため、事業者の責任において実施されなければならないものであり、したがって、安全衛生教育については所定労働時間内に行うのを原則とすること。

また、安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該教育が法定時間外に行われた場合には、当然割増賃金が支払われなければならないものであること。

昭47.9.18基発602号

消防法第8条の規定により法定労働時間を超えて訓練を行う場合においては時間外労働として法第36条の協定を締結して行わなければならない。

昭23.10.23基収3141号

事例5.移動時間

ブラックな経営者は下記のように考えています。

「移動中はLINEゲームしてるだけだから労働時間じゃないでしょ?」

これは半分正しく、半分間違いです。

ここまで解説してきたように、労働時間とは労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間であり、休憩時間とは労働からの解放が保障され、労働者が自由に利用できる時間です。

この観点から、一口に移動時間と言っても、「労働時間に該当するもの」、「労働時間に該当しないもの」がありますので、判例や通達をいくつか押さえておきましょう。

事例5-1.通勤時間

移動時間と言えば、まずは通勤時間です。

私がこれまで受けてきた相談の中に、「(自宅から会社までの)通勤時間分も請求したい!」というものはひとつもありませんでした。

これは、通勤時間は、新聞や本を読んだり、携帯電話でプライベートなメールのやり取りをしたり、労働者が自由に利用できる時間であるから、労働時間に該当しないことが感覚的に共通認識になっているからです。

言い換えれば、通勤時間は、社会通念上、労働時間ではないという定義(概念)が確立されているということです。

恒常的な通勤に片道2時間も3時間も要する特異な場合は除きます。

事例5-2.直行や直帰のための移動時間

直行とは、「自宅」から「営業先や現場など」に、会社に寄らずに行くことを指します。

直帰とは、「営業先や現場など」から「自宅」に、会社に寄らずに帰ることを指します。

これは、前記【事例5-1.通勤時間】と同様であり、営業先や現場に到着した以降が、労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間(労働からの解放が保障され、労働者が自由に利用できる時間ではない)となるため、直行や直帰のための移動時間自体は労働時間に該当しないと判断される可能性が高いです。

しかし、途中で上司と合流し、業務の説明、指示を受けながら、あるいは、打ち合わせをしながら移動する場合はどうでしょうか。

お察しの通り、そのような状態は指揮命令下に置かれている時間と評価できることから、合流した以降は労働時間に該当すると判断される可能性があります。

但し、上司と合流するが、通勤バス乗車のための単なる集合や、ガソリン代を安く済ませるための便宜上の乗り合いなどの場合、指揮命令下に置かれている時間と評価しかねるため、労働時間に該当すると判断される可能性は低いです。

事例5-3.出張のための移動時間

上記【事例5-1.通勤時間】の観点、厚生労働省の通達、及び、裁判例「横河電機事件(東京地判平6.9.27)」によれば、出張を命じられたことによる移動時間も、一般的には、労働時間に該当すると判断される可能性は低いです。

切符などを渡され、列車や時刻などを指定されていたとしても同様です。

また、出張日当日の業務に間に合わせるためにと、例えば休日にいわゆる前乗りで移動した場合であっても同様です。

出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない。

昭和33.2.13 基発90号
昭和23.3.17 基発460号

移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実労働時間に当たると解釈するのは困難であることから、これらの条項から直ちに所定就業時間内における移動時間が時間外手当の支給対象となる実勤務時間に当たるとの解釈を導き出すことはできない。

横河電機事件(東京地判平6.9.27) 抜粋
(韓国出張のための移動時間を争ったケース)

しかし、「一般的には」としたことには理由があります。

なぜなら、裁判例の中には、 出張のための移動時間を労働時間に該当すると判断したものもあるからです。

具体的には「島根県教組事件(松江地判昭46.4.10)」の判断であり、これは、公立学校の教職員らが残業代の支払いを求めて争ったケースです。

請求対象のひとつが、生徒の就職先開拓を目的とした出張のための移動時間(休日の大阪から東京への移動時間)でしたが、「出張のための移動時間は職務に当然付随するもの」として労働時間に該当すると判断されました。

但し、教職員の職務内容は生徒の指導、研修、諸行事、校務など極めて広範囲に亘ることから、かなり特殊であり、労働時間の算定が難しい(通常の基準では判断しきれない)職種のひとつと言えます。

よって、当該判断が一般的であるとは言えませんから、出張を命じられたことによる移動時間は、労働時間に該当すると判断される可能性は低いと捉えておいた方が好ましいです。

事例5-4.物品の監視など別段の指示がある場合の移動時間

上記【事例5-3.出張のための移動時間】にて引用した厚生労働省の通達に「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」というものがありました。

逆説すると、物品の監視など別段の指示がある場合の移動時間は、労働時間に該当すると判断されるということです。

ただ、物品の監視など別段の指示がある場合が、具体的にどのような場合を指すか?を判断する判例(裁判例)や通達はあまりありません。

そのため、これは私見ですが、「重要な書類を届けることを目的として東京本社から大阪支店に移動する移動時間」や「移動時間中に会議の議事録を作成しておくように指示されたうえでの移動時間」などがこれに該当するでしょう。

事例6.自宅に持ち帰った業務の時間

ブラックな経営者は下記のように考えています。

「仕事が遅いから勝手に持ち帰ったんでしょ?そんなの知らないし」

これも半分正しく、半分間違いと言えます。

自宅に持ち帰った業務(持ち帰り残業)についても、基本的には、使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間か?労働からの解放が保障され、労働者が自由に利用できる時間か?という観点から判断されます。

持ち帰り残業をこの観点から判断すれば、労働時間に該当すると判断される可能性は極めて低いです。

なぜなら、持ち帰り残業は、多くの場合において、任意の(都合の良い)タイミングに、任意のペースで、任意のスタイルで行えることから、使用者の指揮命令下に置かれているとも、労働からの解放が保障されていないとも、評価できないからです。

但し、厚生労働省の通達、及び、裁判例「千里山生活協同組合事件(大阪地判平11.5.31)」などによれば、下記の場合には、持ち帰り残業が労働時間に該当すると判断される可能性があります。

  • 使用者から指示される業務の量が、就業時間内に完遂できるものではない場合。
  • 使用者からの指示が、暗に「持ち帰り残業」を指示するものである場合(例えば、退勤時に「明日朝一の会議で必要だから仕上げておいて」などと指示される場合)。
  • 使用者が、持ち帰り残業の事実を知っているにも拘らず黙認している(知らぬふりをしている、暗黙のうちに許可している)場合。

使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内に処理できないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる。

昭25.9.14基収2983号 抜粋

原告らの業務のうち、第一支所の物流業務、豊川倉庫における物流業務、各支所における共同購入運営部門の配達業務については、被告の指示による予定されていた業務量が就業時間内にこなすことができないほどのものであり、そのために右各業務を担当した原告らが時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったのであるから、原告らが従事した時間外労働は、いずれも少なくとも被告の黙示の業務命令によるものであるというべきである。

千里山生活協同組合事件(大阪地判平11.5.31) 抜粋

被告の黙示の指示あるいは少なくとも被告の黙認によりなされた労働として、労基法が規制する労働時間となるものと認めるのが相当である。

三栄珈琲事件(大阪地判平3.2.26) 抜粋

『まだ損してるの?「実は労働時間に該当する」6つの事例』の5行まとめ

  1. 労働時間の定義を理解していなければ、未払い残業代を正しく計算できない。
  2. 労働時間とは、労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間を指す。
  3. 休憩時間とは、労働からの解放が保障され、労働者が自由に利用できる時間を指す。
  4. 労働時間に該当する可能性が高いものは、「手待ち時間」「電話当番などを兼ねた休憩時間」「更衣時間」「研修などの時間」である。
  5. 労働時間に該当するか十分に検討しなければならないものは、「移動時間」「持ち帰り残業時間」である。

新着の「労働問題を相談できる弁護士」

松村 龍一マツムラ リュウイチ 弁護士
第二東京弁護士会
本田 幸則ホンダ ユキノリ 弁護士
第二東京弁護士会
伊倉 吉宣イクラ ヨシノリ 弁護士
第一東京弁護士会
藤川 久昭フジカワ ヒサアキ 弁護士
東京弁護士会
刈谷 龍太カリヤ リョウタ 弁護士
大阪弁護士会
浅野 英之アサノ ヒデユキ 弁護士
第一東京弁護士会