2017/09/22
タイムカードの保管期限は3年!だけど勤怠管理は会社の義務なの?
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「会社にタイムカードや日報など、従業員の労働時間を管理するツールが存在しません」
未払い残業代請求が大々的に取り沙汰されている昨今において、いまだに労働時間を管理していない会社(使用者)がいます。
……管理をしない理由が、私にはわかりません。そこには悪意しか感じられません。
「だって、管理ツールを導入するにはお金がかかるでしょ」
「1万円あれば、まずは十分な機能を備えたタイムレコーダー(しかもタイムカード50枚付き)が購入できる時代です」
「だって、管理するといろいろ面倒でしょ」
「管理しておかないと、後でもっと面倒なことになります」
「だって、管理すると……残業代を払わなきゃならなくなるならなるらでそうがぁ!!」
「結局そういうことですよね。
そもそも「労働時間の管理は使用者の責務(義務)」であることはご存知ですか?」
「……っ!……いやいや、さすがにそんな法律はないでしょ?」
というわけで、このページでは、「労働時間の管理は使用者(会社)の責務」であるかどうかについて、白黒つけたいと思います。
どちらかと言うと使用者向けの内容ですが、残業代を請求(交渉)しようとしているあなたにとっても当然に知っておかなければならないものですので、サクッと理解しておいてください。
このページの目次
1.労働時間の管理は使用者(会社)の責務か?
意外に知られていないことですが、厚生労働省の通達に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」というものがあります(基発第339号 平成13年4月6日)。
結論から言ってしまえば、これに「使用者には労働時間を適正に把握する責務がある」と定められています。
この時点で白黒の決着はつきましたが、せっかくの機会ですので、以下、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」とは、具体的にどのような措置か?について解説していきます。
「あなたが労働者ではなく、使用者である場合、以下を参考に労働時間を管理してください」
2.「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が策定された趣旨
そもそも、なぜ、このような基準が策定されたのか?
労働基準法上も、使用者には労働時間の管理を行う責務があるとされています。
しかし、例えば、残業の自己申告制を不適切に運用するなどして、労働時間の管理を怠っている(曖昧にしている)使用者も多く、結果、残業代の未払い問題や過重な長時間労働問題が発生しています。
よって、これを解消すべく、具体的な措置を明確にし、使用者に労働時間の適正な把握(管理)を行わせることを趣旨として策定されたのです。
3.労働時間の管理が必要な事業場は?
「労働基準法の内、労働時間に係る規定(労働基準法第4章)が適用されるすべての事業場」において労働時間の管理が必要です。
つまり、基本は、すべての事業場と理解しておいて問題ありません。
4.労働時間の管理が必要な労働者は?
『「管理監督者に該当する労働者」及び「みなし労働時間制が適用される労働者」を除く、すべての労働者』に対して労働時間の管理が必要です。
しかし、後述の理由から、「管理監督者に該当する労働者」及び「みなし労働時間制が適用される労働者」に対しても労働時間の管理が必要であると解せるため、基本は、すべての労働者と理解しておいて問題ありません。
4-1.「管理監督者に該当する労働者」にも労働時間の管理が必要な理由
- そもそも「管理監督者に適法に該当する労働者」は一握りであるから。
- 管理監督者においても、健康確保を図る必要があるから、長時間労働を行わせないようにするためにも労働時間の管理が必要であるから。
4-2.「みなし労働時間制が適用される労働者」にも労働時間の管理が必要な理由
- そもそも「みなし労働時間制が適法に適用される労働者」は一握りであるから。
- みなし労働時間制が適用される労働者においても、健康確保を図る必要があるから、長時間労働を行わせないようにするためにも労働時間の管理が必要であるから。
5.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
では、使用者は具体的にどのような措置を講じなければならないのでしょうか。
5-1.始業・終業時刻の確認及び記録
労働時間を適正に把握するためには、単に「1日の労働時間数」を記録するだけでは不十分です。
少なくとも、1日の「始業(出勤)時刻」と「終業(退勤)時刻」を記録する必要があります。
5-2.始業・終業時刻の確認及び記録の方法
原則的に2つの方法があります。
方法1.使用者が自ら現認により確認し、記録する
「自ら現認により」とは、使用者(その他労働時間を管理する上司など)が、始業時刻や終業時刻を、直接、確認することです。
そして、その確認した時刻を、使用者が記録します。
「使用者が記録した各時刻は、(後の無用な争いを防ぐためにも)労働者にも開示し、双方がチェックできるようにしておくことが好ましいです。実態通りに記録されているのであれば開示することに問題はないはずです」
方法2.タイムカード、ICカード、パソコン入力などの客観的な記録を基礎として確認し、記録する
前記の「使用者が自ら現認する方法」は時として現実的ではありません。
なぜなら、現認のために使用者に無用な残業(代)が発生してしまうケースも少なくないからです。
よって、この「客観的な記録を基礎とする方法」が最適であり、だからこそ、多くの会社で採用されているのです。
5-3.自己申告制による確認及び記録は有効か?
前記の「使用者が自ら現認する方法」あるいは「客観的な記録を基礎とする方法」ではなく、「自己申告制による方法」も確認及び記録の方法としては有効です。
しかし、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が策定された最大の趣旨は、この自己申告制が残業代未払いや長時間労働の温床となっている事態を解消することです。
そのため、「使用者が自ら現認する方法」あるいは「客観的な記録を基礎とする方法」での確認及び記録が原則であり、それが困難な場合においてのみ「自己申告制による方法」を採用するというように理解してください。
また、「自己申告制による方法」を採用する際には、使用者は次の3点を遵守しなければなりません。
遵守1.労働者に対して十分な説明をする
「自己申告制による方法」を採用する前に、労働者に対して次のような説明(約束)をしなければなりません。
- 労働時間の実態を適正に記録し、適正に自己申告すること(上司などの目を気にせず実態通りに申告して構わないこと)。
- 自己申告したことによる冷遇(不利益な取り扱い)はしないこと。
遵守2.必要に応じた実態調査をする
自己申告された始業・終業時刻が実態に合致しているか否かについて、必要に応じて調査すること。
なお、「必要に応じて」とは、労働者などから「労働時間の把握が適正に行われていない」旨の指摘があった場合などを指します。
遵守3.適正な自己申告を妨げる措置を講じない
前記の留意点1に似ていますが、次のような措置を講じてはなりません。
- 申告時刻(時間数)の上限を設定する。
- 申告時刻(時間数)の上限を超えた場合の罰則を設ける(評価減点、賞与減額など)
- その他、適正な自己申告を妨げるような指示をする(社内通達、メール、口頭指示など)。
- その他、適正な自己申告を妨げるような雰囲気を作る(申告を不当な理由で却下する、申告者を冷遇するなど)。
6.労働時間の記録は3年間保管されなければならない
労働基準法第109条には次のように定められています。
- 使用者には、労働関係に関する重要な書類を3年間保存する義務がある。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。
労働基準法第109条(記録の保存)
実は、前記条文に定められた「その他労働関係に関する重要な書類」に、「始業・終業時刻(労働時間)を記録した資料」が含まれるか?は、明らかになっていませんでした。
しかし、この「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が策定されたことによって、「その他労働関係に関する重要な書類」には「始業・終業時刻(労働時間)を記録した資料」も含まれることが明らかになったのです。
なお、「始業・終業時刻(労働時間)を記録した資料」とは次のようなものを指します。
- 使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの
- タイムカードなどの記録
- 残業命令書や、それに対する報告書
- 業務日報 など
なお、『「始業・終業時刻(労働時間)を記録した資料」にも3年間の保存義務がある』旨が明らかになったことは、残業代を請求する側にとって非常に大きなアドバンテージとなりました。
【基準策定前の交渉】
「タイムカードには保管義務がないから破棄しちゃいましたよ」
「どう考えても、タイムカードは労働基準法第109条における「その他労働関係に関する重要な書類」に該当するのに……」
【基準策定後の交渉】
「タイムカードには保管義務がないから破棄しちゃいましたよ」
「「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」によれば、労働基準法第109条における「その他労働関係に関する重要な書類」にはタイムカードも含まれていますが、3年間保存せず違法に破棄したということですか?」
「もっとも、同じく3年間の保存が義務付けられている「賃金台帳」の記載事項には、「労働日数」「労働時間数」「残業時間数」「深夜労働時間数」が掲げられていますから、基準策定前においても最低限の労働時間の記録が保存されていなければならなかったことは明らかです」
7.その他の基準
ここまで解説してきたものの他に、次のような基準も明示されています。
「「遵守事項」ではなく「(曖昧な)努力目標」程度にしか感じられませんが、それでも交渉の文句として活用できるケースは多いです」
7-1.労働時間を管理する者の職務
労務管理を行う部署の責任者、つまり、労働時間を管理する部署の責任者は、次の事項について把握、検討すべきである。
- 労働時間が適正に把握されているか。
- 長時間労働が行われていないか
- 労働時間管理上の問題点があればどのような措置を講ずべきか。
7-2.労働時間等設定改善委員会などの活用
必要に応じて、「労働時間等設定改善委員会」などの労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握したうえで、労働時間管理上の問題点、及び、その解消策などの検討を行うべきである。
なお、「必要に応じて」とは、「自己申告制により労働時間の管理が行われている場合」や、「ひとつの事業場(本社、支店、店舗、倉庫など)において複数の労働時間制度が採用されている場合」などを指します。
「「労働時間等設定改善委員会」や「安全・衛生委員会」などの労使協議組織がない場合には、新設を検討すべきと言えます」
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